温め直したら、甘くなりました

茜がどれだけ苦しそうか電話口で必死に説明したのに、救急車は出動させてもらえなかった。


救急隊員は「そんなことで呼ばれたら困ります」と、怒り口調で失礼なことまで言う始末だ。


茜が風邪を引いたことが“そんなこと”だと……?と怒りたい気持ちを抑え、俺は代わりにタクシーを呼んだ。

今はクレームを言ってる場合じゃない。茜の身体のことが第一だ。


そうして向かった病院でも、また俺は怒られた。今度は医者にだ。


びしょ濡れの俺たちを見て、一体今まで何をしていたのかとその医者が聞くから「花見です」と正直に答えたんだ。


そうしたら、「風邪を引くに決まってるでしょ!」とものすごい剣幕で怒られ、二度と雨の中で花見はしないこと、という医者に言われる筋合いのないことまで約束させられた。



「ごめんね、集……」



大量に薬をもらって家に帰る途中のタクシーの中で、茜が弱々しく呟く。



「いいから、茜は寝てろよ。帰ったら何か食べて、薬飲もうな」



それでも俺が逆切れせずにいられたのは、たぶん茜が心配だからだ。


だって、茜が俺にごめんねなんて……そんなの茜じゃない。

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