温め直したら、甘くなりました
「茜、ほら……」
集にティッシュ箱を差し出されて、私は自分が泣いているということに気が付いた。
あらら……今日の私、どうかしてる。
両親が亡くなったのはとっくの昔のことなのに、今さら寂しくなるなんて。
熱で弱っているからなのか、それともこれが本当の私なのか……前者であってほしいと思うけれど。
「俺、あのレシピ少しずつ覚えていつかは全部作れるようになるよ」
「……どうしたのよ急に。あなたの本職は文章を書くことでしょう?」
集は、私のおでこにかかる前髪を優しく梳きながらその問いかけに答えた。
「茜の両親は、もういないけど……代わりに俺が、茜の“おふくろの味”になる」
「……ばか」
「どうせ、俺はばかな夫だよ。でもそれ、うれし泣きだろ?」
そう言って、私の目からこぼれる涙を満足げに見つめる集。
全く、今日は泣かされてばかりだ。
悔しいけれど、今日だけは素直になっても、いいかな……
「……集」
「ん?」
「今夜は、仕事に行かないで……ここに居て」
彼の服を掴んでそう頼むと、私のばかで愛しい夫は目を細めて笑った。
「最初から、そのつもりだよ」
安心した私は、薬を飲んでしばらくするとすうっと眠ってしまった。