温め直したら、甘くなりました
「――毎度。茜が風邪ひくなんて珍しいからこないだはびっくりしたぞ。これ、店の方に置いとけばいいか?」
大きな段ボールに詰まった新じゃが、新玉ねぎ、筍、絹さや……春の旬野菜を持って、聖司が裏口から廊下に上がった。
「うん。ちょうど苺大福も出来上がったところなの。一緒にお店のカウンターで、食べましょう?」
「さんきゅ。配達続きで小腹が減ったところだ」
「この後も行くとこあるの?」
「いや、茜のとこでなんかご馳走になれると思ったからここ最後にした」
「全く、ちゃっかりしてるんだから」
ふふ、と笑い合う私たちに、若いころ切ない別れをしたときの空気は残っていない。
高校時代、結局野球でいい成績を残すことのできなかった聖司は、卒業すると同時に店を継ぐためにこの町に戻ってきた。
その時にはもう私の両親はいなくて、父と母は借金こそ残さなかったものの私に残す遺産なんてなくて、私はバイトをしながら料理を勉強するための専門学校に通うので忙しかった。
そしてゆっくり話す時間ができたときにはもう二人とも大人になっていて、あの頃のことはきちんと思い出話として語ることができるようになっていた。
今は友人として、同じ商店街に店を構える者として、信頼と仲間意識でつながっている。
それが、今の私と聖司の関係だ。