温め直したら、甘くなりました
この人の隣は、すごくくつろぐ。
ぼんやりとそう思った。
幼なじみだから当たり前と言えば、そうなのかもしれないけど……
私はお茶お飲んで口の中を潤した後で、こう語った。
「最初は、そうだった。お父さんとお母さんのためにって思いが強かった。でも今は、自分の意志でお店を続けたいと思ってる。料理も接客も、前よりずっと好きになってるし……」
「――――あんま、頑張りすぎんなよ」
そんな言葉とともに横から聖司の手が伸びてきて、私の手を握った。
「……なによ、これ」
「いや……俺、のんびりしすぎたかもしれないと思って」
「意味が解らないんだけど」
幼なじみの突然の行動に驚き、でもきっとなにかの冗談だと心のどこかで思っていた私に、聖司が告げる。
「俺……茜はそろそろダンナと離婚するだろうと思ってた。店で忙しい茜と、売れっ子小説家の二階堂集なんて、すぐに生活がすれ違ってだめになるだろうって。だけど……」
ぎゅ、と私の手を握る力がさっきより強くなる。
困ったように彼を見ると、幼なじみという気楽な役割を放棄した男の人の顔がそこにはあった。
「最近、ダンナと仲良く店に立つ姿をよく見かけるって、商店街の人が噂してる。茜ちゃんも嬉しそうだし、前より綺麗になったって。
それ聞いて、すごい後悔してるんだ。中学の時の別れも、その後頑張る茜を見守ることしかしてこなかったのも……」