温め直したら、甘くなりました
今日の昼食は、都内にあるホテルの高級フレンチ。
いつもは着ないかっちりとしたスーツが堅苦しくて嫌になるが、先方が指定してきた場所なので断るわけにもいかなかった。
店に入ると、黒服の案内係に個室へと通された。……待ち合わせた相手はまだ来ていない。
高層階にあるので窓からはビル群が一望でき、眺めはいいがこんなところで飯を食っても落ち着かないだろうなと思いながら、俺は椅子に腰を下ろした。
高級そうな座り心地が、逆に居心地の悪さを際立たせる気がした。
5分ほど経過して、ようやくその相手がやってきた。
「――ごめんなさい、お待たせして」
鳥が歌うように、軽やかな声でそう言った彼女。
真っ赤なワンピースは派手だが若い彼女によく似合っていた。
「いや、俺……僕もさっき来たばかりで。初めまして、二階堂集です」
「ふふ、俺でいいですよ。二階堂先生の方が年上なんだし。黒田凜子(くろだりんこ)です。よろしくお願いします」
にっこり微笑んで握手を求めてきた彼女……黒田凜子は、同業者。
つまり、彼女も小説家だ。