温め直したら、甘くなりました
『つまらないついでに、奥さんの料理が食べたいです』
俺を虐めることに飽きた安西がそんな脈絡のないことを言い出し、俺たちは夕飯を食べに二人で茜の店の暖簾をくぐった。
五月の連休明けだからか客の数はまばらで、席について乾杯する頃には客は俺たちだけになっていた。
「うーん、このモツ最高に柔らかいですね」
「わかります?6時間煮込んだんですよ」
安西と茜の会話を聞いて、俺も自分の前に置かれたモツ煮込みに手を伸ばす。
どれどれ、6時間の手間でどれほど変わっているものなのか……
「…………硬い」
これは俺の歯に問題があるのか?
そういえば以前ラーメンの件で、俺の歯は散々な評価を受けた気がするが……
「あ、集のは30分しか煮てないから硬いかもしれない」
よかった……俺の歯のせいじゃなかった。っていうか茜!それはどういうことだ!
「何故安西に手間暇かけたものを出して、俺は適当なんだ!」
「だってちゃんと煮込んだのはもう一人分しか残ってなかったのよ。安西さんにはいつもお世話になってるんだし、集はいつでも私の料理食べられるでしょう?」
「それはそうだが……」
安西の方を苦々しく睨むと、奴は俺に見せつけるようにモツを美味そうに口に入れていた。
くそ……今度原稿を取りに来たとき、どこか分かりにくい場所に隠してやる。