温め直したら、甘くなりました
「さて…………どう償ってもらおうかしら」
ぷわんと酒の匂いの立ちこめる店内で、仁王立ちする茜。俺と安西は床に正座していた。
……安西は俺の振り下ろした酒瓶を避け、そして俺はそのままバランスを崩し棚に突っ込んだのだ。
そのときに、茜が一所懸命集めて大切にしていた酒たちを何十本も巻き込み、店は割れた瓶のかけらとこぼれた酒でめちゃめちゃになった。
「……安西が茜に変なことしようとするからだ」
ぼそりと言った俺に、安西は反論する。
「俺はこの物語を面白くしようとしてですね……」
「なんだよ、物語って……」
「それはこっちの話です。しかし最近先生たちがいちゃつくシーンばかりなので、そろそろ起承転結の“転”的な展開が必要かと思いまして」
「なんだそれは?よく話が飲みこめないが、“転”など必要ない。俺たちの愛はノンフィクションで現在進行形なのだからな!」
「――――二人とも、うるさい!!!」
すいません、と小さくなる俺たちは、この店の掃除と酒の弁償を二人ですることで許してもらえることになった。
とりあえず安西が茜に言い寄ったのは、演技だったということらしい。
裏切りでなくてよかった。
なんだかんだで俺は安西という編集者を信頼しているのだ。
これからも、茜とのデート場所に困ったら頼らせてもらう。
ただし、次は花見以外で頼むぞ……安西。