温め直したら、甘くなりました
それから一週間ほど過ぎたある日のこと、いつもより濃い化粧をして出勤しようとする茜を不自然に感じて、俺は玄関で茜を呼び止めた。
「……なんか、いつもと気合の入り方が違くないか?」
「そうかしら?考えすぎよ。今日は久しぶりに仕事がないんでしょう?ゆっくりできるときなんてあまりないんだから、集はのんびり過ごしてね」
「ああ。そうさせてもらう」
「じゃあね、行ってきます」
茜は俺に短いキスをして、家を出て行った。
最近の俺たちは、出がけと帰宅時のキスが習慣になりつつある。それはとても嬉しいことなのだが、今日の茜はなんだか声がうきうきしているような気がして、キスの余韻に浸ることができない。
化粧も濃かったし、何かが引っ掛かる。俺にのんびりしろって言うのは、店に来るな、という意味にもとれるし……
考えていても仕方がないので、俺は茜の店が開店する頃に店に足を運んでみた。
ただの思い過ごしだと思いたかったのに、そうでないことは入り口の前に立っただけで明らかだった。
“誠に勝手ながら、本日臨時休業とさせていただきます”
そんな張り紙が、俺の心に大きな影を落とす。
いつも通り出勤するように見せかけて、一体茜は今どこに……?
そして何故、俺には本当のことを言わないのか……
いやな予感ばかりが胸に黒い雲のように広がった。