温め直したら、甘くなりました
二人はエスカレーターに乗り、5階の紳士服売り場で降りた。
俺はその同じ階で変装用のサングラスと帽子を購入し(緊急事態だから値段を確認しなかったが、結構高価だった)、二人の話が聞こえるくらいまで近づいてその会話に耳をそばだてた。
「……ネクタイかぁ。安西さんはどれがいいと思いますか?」
「いや……茜さんの選んだものでないと意味がないです」
「恥ずかしいな。男の人に何か身に着けるものを送るのって初めてなんです」
「はは、茜さんの初めてに立ち会うことができて光栄だな」
…………なんだなんだ、なんなんだこのむずがゆい会話は!
っていうか、何故茜が安西にネクタイをプレゼントするのだ?
やっぱり二人はそういう関係なのか?
サングラス越しに見える二人は、似合いの恋人同士に見えないこともない。
それが切なくて、声を掛けることができない。
いつか茜の店で安西が茜に言い寄っていたのは本気だったということか……
なんで見抜けなかったんだよ、俺。……いや、違うな。
信じたかったんだ、安西を。
俺がどれほど茜を愛しているかを一番知っている安西が、俺を裏切るわけなどないと。