怖がりな兎さんとからかう狼さん
 どこか面白そうに目を細めて笑っていた。

「はじめてだな。そんなことを言う奴」

 今度は声を出して笑い出した。恐怖がまた戻ってきた。

「名前は?」
「広瀬風音です。一年です」
「俺は早川海翔。二年」

 そろそろ解放されたいと思っていると、ふいに声をかけてきた。

「今、時間あるよな?ちょっとつきあえ」

 予想外の台詞に驚いた。それは私にとってはまずいこと。

「あの、用事を思い出しました。失礼します!」

 動揺していることに気づかれたくないと思いながら、踵を返した。

「待て」

 さっきみたいに走ればよかったのに、足を止めてしまった。振り向きもせずにじっとしていると、足音だけが響いていた。

「ひょっとして、男性恐怖症?さっきといい、今といい」

 あっさりとばれてしまった。これ以上嘘を吐いても仕方がないので、頷いた。
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