怖がりな兎さんとからかう狼さん
 恋。それは私にとって、不要なものだと今でも思っている。
 誰かが言っていた。一度踏み出せば、もう抜け出すことなんてできないと。
 何かの本に書いてあった。甘い猛毒で飲むと、その味を忘れることができないと。
 あのときから恋なんて意味のないものだと思っていた。それなのに私はどうしてこの人の傍にいるんだろう。
 いや、傍にいるからといって、好きとかそういうのではない。
 自ら求めるときもあれば、気づかないうちに足を踏み込んでしまう。
 恋って複雑で、厄介なものだと理解している。
 この人は恋をどのように捉えているのだろう。
 恋について考えていた時間はそれほど経っていない。私は先輩の声にふと我に返った。

「本題に入るか」
「本題って?」
「もう忘れたのか?昼休みのときにあとで遊んでやるって、ちゃんと言っただろう?」

 こんな崖に追い込まれたとき、どうすればいいのですか!?
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