バイバイ南

 ぎ、こ、ぎ、こ、坂をのぼる。

 散っても散っても、まだもっさりと葉が繁っている銀杏を横目に、

ぎ、こ、ぎ、こ、姫の住まうお城へと。

 あとどのくらいこの道を往復できるのだろう。

 僕は目をつむり、考える。

 少し前までは、未来は微笑んで僕に道をあけていてくれた。

僕は南が好きだけど、この気持ちはかなり淡いものだから、南がいなくなってしまってもあまり落ちこまずに生きていくという自信があった。

それなのに、おいおい。人生は平等なんだなぁと、思う。


 一週間前、見舞いを終えて坂道を下るとき、飛びだしてきた猫をよけて、走ってきたトラックに僕は跳ねられた。

宙を舞った自転車でフロントガラスが割れて、砕けた破片が雨のように降り注いだ。

 思い出して、身震いする。焼けるような痛みと吐き気が甦る。

皮膚の下に沈んだガラスの破片が、うじのように蠢いている気がした。


 というわけで僕の寿命は南よりもずっと少なくなってしまった。

短い時間でできることなんて限られている。せいぜい好きなことをやるくらい――。

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