バイバイ南
「出てってよ」
悲鳴のような声が聞こえた。首をかしげる。
ドアをあけようとした瞬間、ドアが開く。
出てきた中松は僕の顔を見ると、罰が悪そうな顔をして僕をおしのけ、走り去った。
「よかったね、南。中松が来て」
お盆が首筋をかすめて、壁にぶつかった。
「出てけってば」
ゾンビのようにうなだれて南はぽとぽと涙を落とす。
「話そうよ」
「だから、未来のある奴なんかと……!」
「未来のない奴はこんなことしても許されるのかよ!」
僕は拾ったお盆を床に叩きつけた。
南はびくっと体を縮めて、唇をちぎれそうなほど噛む。
「話すことなんかなんもないよ。先がある人と話してると、すごく殺したくなる」
「うわあ……」
「そんなこと思いたくないから、来ないで」
僕は南の顔をのぞきこむ。頬はこけ、肌は紙のように乾燥している。
「今、生きてるんだから、いいじゃんか」
「あんたに何がわかんの」
「そうだな。治療の辛さとかはわかんない」
スポッと毛糸の帽子をとると、充血した目とぶつかった。
南はみるみる赤くなって両手で頭を隠した。
一本も髪がない。
「返して」
目が隠れないようにして、帽子を被せる。