バイバイ南
「出てって」
「嫌だ」
「出てって」
僕達は何度も何度も繰り返す。
西の空が明るいオレンジ色に染まって、だんだん色が濃くなって、赤になりピンクになり、夜になる。
僕達の病的な言いあいは見回りにきた看護士さんの侵入で遮断された。
点滴を抜かないでくださいねと、すごく怒られた。
看護士さんが出ていくと、南は胸を押さえて跳ね起きた。
バケツを素早く差し出すと、僕に背をむけて、おろろろと吐く。
バケツを抱いて苦しそうに悔しそうに震えている背中を、そっとさする。
浮きあがった骨の感触はあまりにも弱々しい。
元から痩せたほうだったのにたった一ヶ月で更に脂肪がそげおちた。抗がん剤の副作用でろくに物を食べられず、食べても吐いてしまう。
帽子の影から頬を伝う涙が見えた。
「もう来ないでよ」