バイバイ南

 ハンドルを握りしめ、自転車を漕ぐ。

南が暮らす、いずれ死にゆく人の住むお城から、ゆっくりとでも確実に遠ざかる。

銀杏並木の緩い坂を、ぎ、こ、ぎ、こ、のぼっていく。

黄色い葉がざわざわと蠢き、衣を脱ぐように葉を降らす。

呼吸で口元がかすかに曇る。

 頂点にたどり着いて振り返った。低い家並のむこうに病院は建っている。整然とならんだ窓が明るく光っている。

 僕はまぶたを閉じて、坂道を滑りおりた。

幅広い車道は静かでエンジンの音はしない。とはいえ、一週間前の僕ならこんな危ないことはしなかった。


「死ぬんだなぁ」


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