バイバイ南
「あー? おまえ、まだあいつの見舞い行ってんの」
昨日何してたの電話したんだよ合コン人数足りなくて。と、中松(なかまつ)が肩を組んできたから見舞いと短く答えると、中松は渋い顔をした。
「今日も行くよ。おまえもたまには来るか」
「ないわ」
「冷たい奴だな」
先月まで南と付き合っていた中松は、苦笑いする。
「だってさ、見舞い行ったってさ、帰れ帰れって怒鳴られるだけじゃね」
教科書を机にだしてチャイムが鳴るのを待ちながら、僕はうなずく。
「未来のある人の顔なんか見たくないって」
中松(なかまつ)は眉間にしわをよせて、南の髪がなくなったとき突然坊主にした、たてがみのような長髪だった頭をかいた。
「未来のない奴に付きあったってさ、俺もなんも得しないし。どうせいなくなるんだし」
「みんなどうせいつかはいなくなるよ」
「そうだけどさー。おまえもやめたら? あいつちょっと調子のってるよ。悲劇のヒロインかっての」
僕は中松の目をじっと見た。
「おまえちゃんとわかってる? 南はもうすぐいなくなるんだよ」
中松は拭い去られたみたいに表情を消した。
「調子にのってるって思うなら、そう言ってやらないと」
耳を塞ぐ代わりみたいに無理矢理へらへら笑って、中松は自分の席に戻っていった。