バイバイ南

 あの頃はよかったなあ、南が元気で。

いや、その後も南は順調にはた迷惑なくらい元気に成長してはいくんだけども、歳をとっていくにつれて僕達はただの幼馴染みになってしまう。

あの頃のような親密さはなく友達よりも少し遠い距離の間柄に。


 そして南は中松と付き合い始めた。気づかぬうちに、いつの間にか。

 中松め……。

 玄関で人の気配がして、にょんにょんは耳をピンと立てた。

 ドアを開け、暖簾をあげて台所に入って来たのはみつき叔母さんだった。

「あ、あんた病院は!」

「これから行くんです」

僕の顔を凝視して、何度か呼吸を繰り返してから、叔母さんはあばばとため息をつく。

「あんたのお母さんがね、あんたが死にそうで大変で側を離れられないから、猫に餌やりやってちょうだいって。何日もやってないはずだからって電話がきて……」

僕はにょんにょんの頭をなでる。

「叔母さん慌てちゃったわよ。猫に餌やったら、病院に行こうとしてたとこ。自転車とばして来たんだから。なんともないのね?」

「見ての通り」

「大きな事故だったって言うけど……包帯ひとつ巻いてないのね」


 戸棚から餌のつまった袋をだして、皿にざらざらとこぼす。

 みゃあ。

 にょんにょんはテーブルに跳ねあがり、むがむがむがっとペットフードに顔をうずめた。

「お母さんに文句言わなくちゃ」

叔母さんはぷりぷりしながら帰っていった。




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