シニカレ

第一章

Story1

あたしの一つの希望は叶わなかった。
あたしが、病院についたときには、
いや、正確にいえば彼の母親が、
あたしに電話してきたときには、
すでに、彼は亡くなっていた。


事故死だったそうだ。

なんでも、ワゴン車が赤信号にもかかわらず
交差点に飛び出していき、
その時、たまたま渡っていた彼はそのまま...
轢かれて死んだ。
打ち所が悪かったそうだ。


このことは、彼の母親が泣きながら教えてくれた。
言うのもつらそうで、もっと詳しいことも教えてくれようとしたが、
その姿を見ていられなかった。
だから、あたしはもうこれ以上はいいです。
そう言って、その場から離れた。

しかし、あたしは悲しかったから離れたわけではなかった。
自分自身は涙も悲しみも何もなかった。
感情というものがその時はなかった。
そんなあたしが、あんな泣いている彼の母親の前に、
居てはいけない。そう思ったから離れたのだった。

だって、あたしは
彼が死んだなんて、考えられなかった。
彼の遺体もしかっりとこの目で見たはずなのに、
現実として受け入れられていなかった。


よく、マンガとかで彼氏の死を受けられない人がいるが、
まったくその状態だった。

そして、無感情の状態で彼のお通夜もお葬式も
すべて済んだ。