二面相
第2章 クラゲ
柏木という男との出会いは、十年前。私が 幼い大樹を連れて、今住んでいるアパートに引っ越してきた頃だった。



その頃の私は、やっと看護師の免許を取り、誰の世話にもならずに 独り立ちしたくて 堪らなかった。


でも 実際やってみると、大変なことばかりで、泣き出す大樹と一緒に泣くことも よくあった。


一人で子育てをしながらフルタイムで働くことは想像以上にハードなものだ。
それに加えて、一、二歳の子供は よく病気をする。


その日も 熱を出した大樹を おんぶして、小児科から帰るところだった。


私の住むアパートの一階には、コンビニがある。


息子をおぶったまま、買い物をしていると、見兼ねた バイトの店員が 声をかけてきた。



「大変でしょう。よかったら、ボクが荷物、持ちますよ」


「すみません、助かります」


それが 柏木との 出会いだった。



同じようなことが 何度か続くうち、柏木は、私の部屋に居着いた。


そして、いつの間にか、そのコンビニのバイトも辞めていたのだ。



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