二面相
心療内科を受診した次の日、私は診断書を 看護師長に 差し出した。


「このような理由で、仕事をすることに支障が出るようになりました。皆さんには 大変ご迷惑かけますが、実家に帰り、療養しようと思います」


師長は、みるみるしかめっ面になる。



「困ったわ。本当に。急に言われても。あなたには 新人の頃、凄く手をやかされたのよ。

十年勤めて、ようやくすべて任されるようになったのに。こちらの苦労もことも 考えてほしいわ。全く」


その後も 散々嫌味を言われた。


私は その間、気を反らすように 師長の顔のシワの数を数えていた。




まともに 聞いていたら、またパニック発作が出る。


「本当に申し訳ありません!」


とりあえず、話が中断したところで、心を込めて言ってみた。



「福原さん。有給休暇が貯まっているから 一ヶ月、しっかり休んで できれば 帰ってきてちょうだい。無理なら あきらめます。本当によく がんばってくれたわ」


師長は そう言って さっさと 師長室を出て行った。


「あの……」


辞める決心をしていたのに、どうやらうやむやにされてしまったようだ。

私の 気持ちは すっきりしない。




看護師が不足している 昨今、師長の言い種も 仕方がないのだが、


本当は きっぱりと辞めて実家に引き揚げたかった。


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