二面相
大樹は 嫌がるでもなく、私についてきた。


私と息子は 身の回りのものを ボストンバッグにまとめ、部屋を出た。


もちろん、貴重品など残しておくわけがない。



柏木は 私たちを止めるでもなく、クーラーのついた涼しい部屋で テレビを見て、笑っていた。



玄関のドアを閉めたとたん、大樹がため息をついた。


「あの人、ダメだね」




声がわりを間近にした、かすれた声で つぶやくのを聞くと 私の選択は間違っていなかったと感じた。




私と息子は 実家へと向かう電車に乗る。



夏の田舎の電車というのは、久しぶりに乗ると、それなりに風情がある。

白いレースのリボンのついた麦藁帽子を被り、赤いリュックサックを背負った、幼い女の子が、食い入るように 列車の窓から流れる景色を見ている。


時折、優しそうな母親に 何か聞いているが 母親は眠気でうとうとしている。


< 22 / 42 >

この作品をシェア

pagetop