二面相
第3章 帰省
実家のある、田舎の駅につき、むせ返る暑さのなか、川添いの道を歩いていた。


汗を拭くため 立ち止まると 私の前をスタスタ歩いていた息子が足を止める。


そして 何も言わず、私の荷物を持って、また歩きだす。


この頃 息子がたくましくなったと感じる。


これが 息子を育てた親の喜びのひとつなのかもしれない、と 三十歳の私は思うのだ。


息子は 父親を知らない。




不思議だとは思っていたが 幼い頃から一度もその存在について 聞いたことがない。


柏木を父親と思っているわけでもないし、息子は息子なりに 口に出してはいけないと気を使っているのかもしれない。



男親が みな 柏木のようだと 勘違いしているのなら、きっと実家に帰って考えが変わるだろう。


私の父親は 団塊の世代を象徴するような、仕事人間だった。



それから実家に同居している二つ年上の兄は 留守がちな父親に反抗して、一度ぐれかけたが、


母親を泣かしたことに後悔して 反れた道を元に戻し、父親と同様に、今は仕事人間だ。

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