二面相
私は 恐る恐る、病院を辞めるかもしれないこと、そして体調のことを話し、しばらくここに置いてほしいと頼んだ。



「だから 言ったでしょう!!」



母が 目を吊り上げて怒鳴る。



夕飯の支度をし始めた義姉の手が 止まり、こちらに耳を傾けているのがわかった。


父は ずっと 押し黙っている。



「そんなに 悪いの?」


母はため息混じりに訊く。



「正直、しんどいわ。仕事に出るのも、外出するのにも、何だかムカムカして息苦しいの。冷静な判断ができなくて、看護師としては致命的。今は安定剤に頼ってばかりいるわ。それでもね、苦しい。ドクターは休め、とにかく休めって……本当は 弱音なんか吐かないで 頑張るって決めたんだけど……」



「あんたは 馬鹿よ。一人で やれることには 限界があるでしょう?

身体を壊したら、誰が 大樹を育てていくの?

ウチには孫が今度、三人目が生まれるのよ。そっちの面倒だけで 手いっぱいだよ。とても大樹の面倒までは……」




「やめんか!!」


黙っていた 父が 急に怒鳴った。



「そんなことは 子供が寝てからでも 話せるだろう。……調子が悪いなら、ずっとここにいたらいい。

お前は 嫁に出た訳じゃないし、まだ うちの娘で、大樹は うちの孫だ。お母さんも わかったな」



「……」


母は 団扇で わざとらしくパタパタ扇ぎながら、不機嫌に 台所に向かった。



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