二面相
私は母を諭してくれた、父の言葉に 涙が 出そうになった。


「勝手を言って ごめんなさい。しばらく、お世話になります。……大樹の学校のこともあるし、なるべく早く職場のことも 結論を出します」



父に そう伝えた。


「ああ。大樹のことを一番に考えなさい」


父は それだけ言うと、

「風呂に入ってくる」

と 立ち上がった。




「今日の お夕飯、焼き肉にしましょうか」


義姉が 台所で 母に訊ねる。




「ごめんね、美紀さん。麻子と 大樹、しばらくここにいることになるかもしれない」


母は 義姉の機嫌をとる。


「あ、ああ そうなんですね。私は ……かまいませんよ。アハハ」


義姉は 「そうなんですね」が口癖だ。



出て行った娘と言うのは、肩身が狭い。実の母親は 娘より 嫁が大事なのか?


しかたない。自業自得だ。


ふと、亡くなった祖母が懐かしくなり、仏間に向かう。
独居だった祖母は亡くなったあと、この仏檀にいる。

< 33 / 42 >

この作品をシェア

pagetop