月下の誓約


 外に出ると雲一つない夜空に、天頂から少し西に傾きかけた月が、あたりを明るく照らしていた。

 真夜中の砦内は静まりかえっている。
 物見櫓と外壁の周りには夜警の兵士がいるが、庭を出歩いている者はいない。
 誰もいない中庭は昼間よりも広く感じられた。

 和成は中庭の真ん中で、月を見上げて立ち止まる。
 少しの間月を見つめた後、そのまま目を閉じた。

 これは和成が戦場で行う夜の儀式だ。
 血に汚れた自分を月の光が清めてくれるような気がするからだ。
 もちろん気休めでしかない事は重々承知している。

 少しして目を開いた和成は、宿舎前の洗面所へ向かった。
 顔と前髪についた血を洗い流し、懐に手を入れようとして手ぬぐいを捨ててきた事を思い出した。

 着物で拭こうにも袖口も胸元も血まみれで役に立たない。
 放っておけば乾くだろうと諦めた時、後ろから手ぬぐいが差し出された。


「ほら」


 振り向くと右近が立っていた。

< 103 / 623 >

この作品をシェア

pagetop