月下の誓約
外に出ると雲一つない夜空に、天頂から少し西に傾きかけた月が、あたりを明るく照らしていた。
真夜中の砦内は静まりかえっている。
物見櫓と外壁の周りには夜警の兵士がいるが、庭を出歩いている者はいない。
誰もいない中庭は昼間よりも広く感じられた。
和成は中庭の真ん中で、月を見上げて立ち止まる。
少しの間月を見つめた後、そのまま目を閉じた。
これは和成が戦場で行う夜の儀式だ。
血に汚れた自分を月の光が清めてくれるような気がするからだ。
もちろん気休めでしかない事は重々承知している。
少しして目を開いた和成は、宿舎前の洗面所へ向かった。
顔と前髪についた血を洗い流し、懐に手を入れようとして手ぬぐいを捨ててきた事を思い出した。
着物で拭こうにも袖口も胸元も血まみれで役に立たない。
放っておけば乾くだろうと諦めた時、後ろから手ぬぐいが差し出された。
「ほら」
振り向くと右近が立っていた。