月下の誓約
10.最後のわがまま
結局、和成は一睡もできないまま一夜を明かした。
夜が明けて皆が起き出し、朝食の支度が整うと朝食の膳を持って紗也の部屋を訪れた。
命の危険が伴う戦場に、紗也と同じくらい戦と縁遠い女官を連れてくるわけにはいかない。
紗也の身の回りの世話は、必要最低限のもののみ和成が兼任することになっていた。
寝不足でひどい顔をしているのを笑われるだろうと覚悟して扉を叩く。
扉を開けて現れた紗也は更にひどい顔をしていた。
「紗也様、お顔がすぐれませんが」
思わず口をついて出た和成の言葉に、紗也は目を細くすると怪訝な表情をする。
「それ”お顔の色が”の間違いじゃないの?」
「いえ、本当に”お顔が”すぐれません」