月下の誓約
俯いて拳を握りしめ、聞こえないほどの小声でつぶやく。
「ぜってー剃らねー。いっそこのまま打ち首になってこの首さらしてやる」
”打ち首”と声に出してみて一気に頭が冷静になった。
未だに実感は湧かないが、程なくその時はやってくるのだ。
城に帰ったら、もう二度と紗也に会うことはないだろう。
紗也のわがままを聞くのもこれで最後かもしれない。
そう思うと自分がこだわっている事など些末な事に思えて、寛大な気分になってきた。
和成は大きく息をついて、紗也に向き直る。
「わかりました。剃ってまいります。一時間程で膳を下げにまいりますので、それまでごゆっくりとお食事をなさって下さい。それでは失礼します」
そう言って頭を下げ、和成は出口へ向かった。
そのあまりにも達観したような様が、紗也の不安をかき立てる。