月下の誓約


 俯いて拳を握りしめ、聞こえないほどの小声でつぶやく。


「ぜってー剃らねー。いっそこのまま打ち首になってこの首さらしてやる」


”打ち首”と声に出してみて一気に頭が冷静になった。
 未だに実感は湧かないが、程なくその時はやってくるのだ。

 城に帰ったら、もう二度と紗也に会うことはないだろう。
 紗也のわがままを聞くのもこれで最後かもしれない。

 そう思うと自分がこだわっている事など些末な事に思えて、寛大な気分になってきた。

 和成は大きく息をついて、紗也に向き直る。


「わかりました。剃ってまいります。一時間程で膳を下げにまいりますので、それまでごゆっくりとお食事をなさって下さい。それでは失礼します」


 そう言って頭を下げ、和成は出口へ向かった。

 そのあまりにも達観したような様が、紗也の不安をかき立てる。

< 115 / 623 >

この作品をシェア

pagetop