月下の誓約
少し声を出して和成は笑う。
そして、自分の身体に巻き付いた紗也の手をほどいた。
「さぁ、お離し下さい。ヒゲを剃る時間がなくなります。”みだりに男性の身体に触れてはなりません。はしたない女性だと思われますよ”って女官長に教わりませんでしたか?」
「教わったけど。和成はいいの」
あっさりと即答する紗也に、和成はガックリ肩を落とす。
「私は男じゃないとでもおっしゃるんですか。だから”かわいい”んですか」
「男だけど、男とか女とか思ってないの」
「意味がわかりません。とにかく、もうこういう事なさらないで下さい。私がびっくりしますので」
そう言うと再び頭を下げて、今度こそ部屋を出た。
部屋の外に出たと同時に、和成は大きく息を吐き出した。
ホッとしたと同時に顔に血流が集まってくるのを感じる。
実は未だに鼓動が鳴り止まずにいたのだ。
大きく二回深呼吸をすると、懐から電話を取りだして右近を呼び出した。