月下の誓約

 11.終戦



 洗面所の壁にもたれて、右近は呆れたように和成をながめている。


「戦場で呑気にヒゲ剃るやつぁ初めて見たぜ」
「しょうがないだろ。紗也様のご命令とあらば」
「おまえいつもそんな命令まで聞いてんの?」
「聞くわけないだろ。そんなわがまま」


 吐き捨てるように言いながら、和成は顔を拭いた手ぬぐいと剃刀を右近に返した。

 それを受け取りながら、右近は不思議そうに問いかける。


「だったらなんで今日に限って……」


言いかけたところでピンと来た右近は、自分で答えた。


「あぁ。今日に限ってだからか」
「そういう事だ。俺は今、あの空よりも心が広くなってるんだ」


 空を指差して和成は笑う。

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