月下の誓約
今度こそ本を開こうとして、久しぶりに人を斬ったことを思い出した。
刀が痛んでいる。
もう刀を使う事もないのだろうが、痛んだままなのは気になった。
それが遺品として親の元に届けられるのもおもしろくない。
時計に目をやる。
今の時間なら道場には誰もいないだろう。
和成は立ち上がり、枕元に置いてある刀を掴んで、道場脇の研磨場へと向かった。
城内中庭の一角には、城勤めの軍人用に剣や武術の鍛錬を行うための道場がある。
使用時間は部隊ごとに割り当てられているが、城内官吏の始業時間に当たる九時から十時までの間は、利用者がほとんどいない。
皆、城内で他の仕事に就いているからだ。
和成が道場脇の研磨場に着いた時、案の定誰もいなかった。
早速袖をまくり、砥石に向かって痛んだ刀を研ぎ始める。
少しして研ぎ終わった刀を陽にかざしてみた。
水が滴るその刃は陽光を反射してキラキラと美しく輝く。
その反射光を見つめて目を細めていると懐の電話が鳴った。