月下の誓約
頭を下げる女官に背を向け、和成は塔矢を促した。
「塔矢殿、私の部屋までご足労願います」
「あぁ」
「ちょっと、和成! 何勝手に決めてんのよ!」
わめく紗也には目もくれず、和成は廊下をスタスタと歩いていく。
塔矢も少し会釈をして、その後に続いた。
不満げに鼻を鳴らして紗也が振り向くと、茶を乗せた盆を掲げた女官が、ニコニコしながら遠ざかる二人の後ろ姿を見つめていた。
「あなた、私を遠ざけるために利用されたのよ。何嬉しそうにしてるの」
呆れたように紗也が尋ねると、女官は益々嬉しそうに、顔を上気させて答えた。
「和成様とお話が出来て嬉しいのです」
紗也はわざとらしく、大きなため息をつく。