月下の誓約
塔矢は情報処理部隊長から、和成がいなくなると困るからなんとかしてくれと、署名用紙を渡された。そして事の詳細を聞いたのだ。
急な作戦変更で前線の兵士には戸惑っている者も少なくない。
それは今後、和成への不信感となり、前線の結束が乱れる元となる。
そうなれば今まで不敗を続けてきた杉森軍も、乱れた結束の隙を突かれ敗れる可能性は大いにある。
和成への信頼を取り戻すためにも、真相を知らせる必要があると前線部隊統括主任である塔矢は判断した。
戦が終われば全部隊全兵士が集まる機会もめったにない。
幸い戦況は停戦状態だったので、真相を知らせると共に署名用紙を回覧したのだ。
「あの時は、てっきり拳で殴られると思ってました」
「そうしたかったんだが、俺がグーで殴ったらおまえ吹っ飛ぶだろうが。そしたら後ろにいた紗也様が巻き添いになるだろう。運がよかったな。紗也様に感謝しろ」
塔矢は案外冷静だったようだ。
和成は首をすくめてクスリと笑う。
すると塔矢はニヤリと笑いながら、身を乗り出して和成の顔を指差した。