月下の誓約
意味ありげな笑みを浮かべて、塔矢は静かに問いかけた。
「紗也様に抱きつかれてドキドキしたか?」
少しうろたえて、和成の顔がかすかに赤くなる。
「そりゃあ……するでしょう? 普通。女に抱きつかれたら」
「そうか? ドキドキしない女もいるはずだぞ」
和成の反応を探るように見つめながら、塔矢は更に尋ねた。
「たとえば、顔を見たくもないほど大嫌いな女とか。自分と血のつながった身内とか。おまえ母親に抱きつかれてドキドキするか?」
「したら、自分で自分が気持ち悪いですね」
「そうだろう? つまりドキドキしない女も確かにいるって事だ。違いがわかるか?」
「え? 謎々ですか?」
笑って見つめる塔矢を和成は訝しげに見つめ返す。