月下の誓約


 和成は少し顔を上げて塔矢を見た。


「紗也様はおまえをナメてるんじゃなくて、誰よりも信頼していると思うぞ」
「えぇ?」


 思いも寄らない塔矢の見解に、和成は思いきり疑わし気な顔をする。


「納得いかないか? 紗也様はおまえにしか反発しないし、わがままは言わない。
他の者には遠慮があるからだ」

「それは私をナメているからじゃないんですか?」

「違うな。紗也様が遠慮するのは他の者が紗也様に遠慮しているからだ。
おまえは遠慮がないだろう。平気で怒鳴りつけるし、聞けないわがままは容赦なく拒否する。身分や肩書きに弱い俺のようなじじい共には到底マネできない」

「なんか単に私が無礼なお子ちゃまだと言われてる様な気がするんですが」

「その通りだ。だが、君主として持ち上げてチヤホヤしてくれる大人たちよりも、本音の見えるおまえの方が紗也様には信頼できる相手なんだろう」

「そう……ですかぁ?」

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