月下の誓約
「なんだ? 紗也様には聞かれたくない話なんだろう?」
和成の部屋で出された茶を一口すすって、塔矢が促した。
机を挟んで向かい側に座った和成は、目の前にある湯呑みの中をぼんやりと見つめながら俯いている。
和成はそのままポツリとつぶやいた。
「私は、紗也様を戦場で守り抜く自信がありません」
「えらく弱気だな。どうしてそう思う?」
一瞬ためらった後、和成は紗也の護衛官に就任して以来、常に思っていた事を話し始めた。
「私はあの方にナメられているからです」
塔矢の言う事は素直に聞くのに、紗也が和成の言う事に素直に従った試しはない。
元々君主が家臣の言う事に従う必要はないとはいえ、耳を傾けるどころか真っ向から反発する。