月下の誓約


 和成が頭を下げると、紗也はすかさず指摘した。


「さっき抜こうとしてたじゃない」
「不審者に対してはこの限りではありません。あなたは思い切り不審でした」
「もう! 重ね重ね失礼ね!」


 足を踏みならして怒る紗也に、和成は笑いながら提案した。


「どうしても御覧になりたいのでしたら、明日午後二時に道場までご足労願えますか? そこでなら好きなだけ抜いて振り回してかまいませんので」


 午後二時から四時までは、和成が所属する第一部隊、通称塔矢隊の道場使用時間だ。
 それを聞いてあっさりと機嫌を直した紗也は笑顔になる。


「わかった。二時ね。じゃあ、おやすみ」


 そう言うと、渡り廊下に向かって歩いていった。
 門の手前で紗也は振り返り、満面の笑みを湛えながら無邪気に残酷な一言を放つ。

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