月下の誓約
ついでのようにサラリと言われ、和成は密かにうろたえる。
「あ、あれ。新しいの買って返すよ」
『いや、あれじゃないとダメなんだ。大事な母の形見だし』
「ウソつけ。おまえの母親、城下でピンピンしてるじゃないか。なんであれにこだわるんだよ」
見え透いたウソに軽く苛つきながら尋ねる和成に、右近は意地悪な声で答えた。
『だってアレ、おまえの辞世の句が書いてあるハズだから』
図星だ。
短歌などではないが、右近に当てた最期の言葉を確かに書き込んだ。
「なんで、そういうよけいな勘が働くんだよ」
『あ、アタリ? なんか照れくさいこと書いたんだろ。是非見たいね』
「今際の際に見せてやる。じゃあな」
そう言って和成は一方的に電話を切った。
時計に目をやると昼休みが終わろうとしている。
結局仮眠は取れなかった。