月下の誓約
少し余計な事を口走ったような気がして、和成はチラリと紗也の様子を窺う。
紗也は黙って和成を見つめていた。
いつものように反発されるかと思ったが、それもない。
今のうちにもう一押ししておく事にする。
「人を斬らなくてすむなら、その方がいいでしょう? あなたの御身は私が責任を持ってお守りいたします。先の戦のような失態は二度と演じる事のないよう肝に銘じておりますので、どうか私におまかせ下さい」
そう言って和成が頭を下げると、紗也は笑って頷いた。
「わかった。まかせる」
紗也が和成の言う事を素直に聞いたのは初めてかもしれない。
和成がホッとして頭を上げた時、塔矢隊の隊員たちが次々と道場にやってきた。
皆紗也の姿を見て、一礼をする。
塔矢隊は前線の要となる部隊なので、それなりに腕の立つ者で編成されている。
新兵が配属される事は稀だ。
和成の後に配属された者はいないので、和成にとっては全員が先輩だった。