月下の誓約


 大きく背伸びをして、彼は読んでいた本をパタリと閉じた。
 肩にかかる銀糸のごとき長い白髪を、うるさそうに片手で背中に払う。

 突然強烈な眠気に襲われて、立ち上がるのも億劫だった。
 彼は小さくあくびをして、そのまま本を枕に、机の上に突っ伏した。

 目を閉じて、あの日以来夢の中でしか遭う事の出来ない少女の姿を思い浮かべる。

 かつて愛し、今も愛して止まない少女の姿が、ありありと彼の脳裏に蘇った。
 それと同時に、今は病床にあるかつての上官の事も思い出した。


(明日、塔矢殿の見舞いに行こう)


 久々に人里に降りる事を決意し、彼は安心して睡魔に身を委ねる。

 今宵はいつにも増して、過去の情景が色鮮やかに思い出されるようだ。

 抗いがたい微睡みの淵をたゆたう彼の意識は、少女のいたあの頃へと飛翔していった。

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