月下の誓約


 静かに微笑む和成を見て、あっさり機嫌を直した紗也は嬉しそうに笑った。

 和成の笑顔を見ると、どういうわけか紗也は上機嫌になる。
 それが和成には不思議に思えた。


「じゃあ、明日ね。おやすみ」
「おやすみなさいませ」


 紗也は上機嫌のまま、満面の笑顔で手を振る。
 そして庭の奥へと消えていった。

 それを見送った後、和成は再び月を見上げる。

 昨日、記憶を辿った時から気付いていた。

 我慢や駆け引きと無縁の紗也は、感情も行動もいつもまっすぐだ。
 言葉にも裏がない。

 わがまま言われたり、言う事を聞いてくれなかったり、迷惑をかけられて苛立つことも多かったけれど、その笑顔に救われたり、ホッとしたりすることも多かった。

 なにしろ紗也の笑顔には偽りがない。
 紗也が笑うのは、本当に嬉しいか、楽しい時なのだ。

 だから自分のせいで一晩中泣かれた時は心が痛んだ。

 たとえ月の光でこの想いが溶けて流れてしまったとしても、紗也の笑顔が絶える事のないよう、この国と紗也の身を守り続けていこうと、和成は月に誓った。




(第一話 完)


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