月下の誓約


「怒鳴って申し訳ありませんでした」


 そして紗也の反応を待たずに塔矢の机に向かう。
 紗也はそれを黙って見送り、諦めて自分の机に戻った。

 塔矢に言伝と書類を渡して、和成は早々に執務室を出ようとする。
 それを塔矢が呼び止めた。


「おまえ、急ぎの仕事でもあるのか?」
「いえ、別に」
「じゃあ、昼一に経理の会議室に来い。話がある」
「わかりました」


 急ぎの仕事はないと言った割りに、和成は忙しそうに部屋を出て行く。
 和成が出て行った後、紗也は机に頬杖を付いて塔矢に問いかけた。


「ねぇ、塔矢。和成って最近、私を避けてない?」


 そろばんを弾こうとしていた塔矢が、顔を上げて紗也を見つめる。

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