月下の誓約
「塔矢殿。真面目な話の間でサラッと茶化すのやめてもらえませんか。私は”天才”でも”美少年”でもありません。だいたい私が軍師になる前からうちは負けてないでしょう? なんで私のせいなんですか」
憤りを露わにする和成を見て、塔矢は顔をしかめた。
「俺に怒るな。矛先を変えたんだろう。今までだって正面から戦を仕掛けても勝てないもんだから、搦(から)め手から色々仕掛けてきてたんだ。たとえば……」
一旦言葉を切り、塔矢は探るように和成を見る。
「政略結婚の申し込みとか」
すかさず和成が身を乗り出した。
「紗也様にですか?」
「他に誰がいる。言っとくが紗也様は十歳の頃から各国のお偉いさんの求婚が後を絶たないんだ。狭い城内の女官にモテモテなおまえとは格が違うモテモテなんだぞ」