月下の誓約
「だから、モテモテじゃありませんし、張り合ってもいませんから。でも、今まで結婚してないってことは紗也様は全部断ったってことですか?」
「紗也様は求婚のことをご存じない」
そして塔矢はニヤリと笑いながら拳を握る。
「俺が水際で握り潰しているからな」
和成は呆気にとられて問いかけた。
「補佐官ってそんな権限もあるんですか?」
涼しい顔をして、塔矢はしれっと言い放つ。
「補佐官の権限じゃない。俺の権限だ。俺は紗也様が七歳の時からお側にお仕えしている。いわばあの方の父親のようなものだ。五十や六十のおやじとのあからさまな政略結婚など許せるわけないだろう。おまえのような中途半端な虫が付くのも許さん」