月下の誓約
3.恋文の行方
夕方、紗也に電算機の操作を教えた後、和成は電算室へ向かった。
朝手を付けた仕事を、休み前にもう少し進めておきたかったのだ。
電算室が見えてきた時、その入り口にこちらを向いて立っている人影があった。
和成を認めて軽く会釈するその人は橘佐矢子だ。
彼女に頼まれた仕事は、休み明けでよかったはず。
まるで待ち構えていたような様子が気になり、また何か事件でもあったのかと和成は少し焦る。
「和成様。お待ちしてました」
「何か障害でも起きましたか?」
和成の問いかけに、佐矢子は氷のように冷たい表情で和成を見つめた。
「いいえ。個人的な用件です。今、少しよろしいですか?」
「ええ、かまいませんが」
佐矢子に促され、和成は彼女の後に続き、廊下から中庭へと降りる。
気配を感じて何気なく振り返ると、電算室の入り口が少し開いていて、その隙間からこちらを窺っている慎平の顔がチラリと見えた。