月下の誓約


 冷たい声音に和成が恐る恐る顔を上げると、佐矢子は無表情のまま和成を見つめていた。
 和成はおずおずと尋ねる。


「何を差し上げればいいんでしょうか」
「いつも忙しくしている和成様の、たまの休みを一日私に下さい」


 そう言って佐矢子は椅子から立ち上がった。

 和成から目を逸らし、正面を向いたまま機械的に告げる。


「明日、朝十一時に城下にある商店街の入り口でお待ちしています。必ず来て下さい」


 和成の返事を待たずに、佐矢子は足早にその場を立ち去った。
 和成もゆっくりと立ち上がり、佐矢子の後ろ姿を見送る。

 佐矢子の姿が見えなくなると、手許の裂かれた手紙に目を移し、ひとつため息をついた。

< 227 / 623 >

この作品をシェア

pagetop