月下の誓約


「和成殿ーっ!」


 声をひそめて叫びながら、佐矢子と入れ替わりに慎平が駆け寄ってきた。


「佐矢子殿怒ってませんでしたか?」


 心配そうに問いかける慎平に和成は苦笑を返す。


「怒ってたよ」

「私が手紙を返したら、何も言わずに無表情のまま目の前で破ったんですよ! もう、怖くって!」

「ごめんな。俺のせいで」

「でも意外でした。佐矢子殿は普段は優しくて親切で頼れる先輩なんですよ。あんな激しい面も持ってたなんて」


 確かに普段の佐矢子は親切で、後輩たちにも慕われていた。
 部長に対して臆することなく意見する強気な女性だが、感情的になったのを和成は今まで見たことがない。

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