月下の誓約


 普段は人を寄せ付けない雰囲気をまとった和成らしからぬ行動に、佐矢子は心臓が止まりそうなほど驚いた。
 間近にせまった笑顔を、声も出せずに思わず見つめる。

 和成が笑顔のまま耳元で囁いた。


「そのまま、振り向いたり騒いだりしないで聞いて下さい。後を付けられているみたいです」


 目を見開いて見つめる佐矢子に、和成は笑顔を崩す事なく目配せする。

 ようやく状況を理解した佐矢子は、和成に合わせて微笑みながら小さく頷いた。

 和成も頷いて佐矢子から手を離す。


「少し座って話をしましょう」


 そう言って店先で飲み物を買い、そのひとつを佐矢子に渡した。
 二人で店の外の壁際に置かれた長椅子に並んで腰掛ける。

 飲み物を飲むフリをして口元を隠しながら和成が話しかけた。

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