月下の誓約


「ここなら後ろから覗かれることはないでしょう。彼らが読唇術とかできない事を祈りたいですね。先ほどは不躾にあなたに触れて申し訳ありませんでした。もう少しの間、恋人ごっこにお付き合い下さい」


 佐矢子は微笑んで頷き、まるで内緒話をするように和成の耳に手を添えて小声で尋ねる。


「”彼ら”ってことは何人かいるんですか? 目的に心当たりはありますか?」


 和成も笑顔で返す。


「三、四人はいますね」


 そして、佐矢子の影に隠れるようにして耳打ちした。
 端から見れば二人の様子は、恋人たちが愛を囁き合っているように見えるかもしれない。

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