月下の誓約


 心配そうな表情で駆け寄ろうとする佐矢子を、和成は大声で制した。


「来てはなりません!」


 和成の険しい表情と声にビクリとして、佐矢子はその場に立ち止まる。


「そのまま、目を閉じて回れ右して下さい」


 和成の後ろには佐矢子を追って行こうとした男の骸がころがったままだった。

 言われた通りに目を閉じて後ろを向いた佐矢子の前に回り込み、和成は彼女の手を引いて街道脇にある木の影に誘導する。

 そこなら和成の作り出した惨状が、彼女の目に入る事はない。

 和成の手が離れた事を察して、佐矢子はゆっくりと目を開く。
 彼女の目の前には怒ったような顔をした和成がいた。


「どうして戻ってきたんですか。私にかまわず逃げて下さいと言ったでしょう」

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