月下の誓約


 佐矢子はにっこり笑って答えた。


「恋する女の勘です」


 またか、と和成はひとつため息をつく。


「では、根拠はないんですね」
「根拠はなくても噂になれば、まことしやかに囁かれるものですよ」


 意地悪な笑みを浮かべる佐矢子を見つめて、和成は眉間にしわを寄せた。


「何がしたいんですか」

「取引です。あなたの心までくれとは言いません。口づけをください。口止め料としては安いものでしょう?」


 佐矢子の想いに応える事はできないと、和成ははっきり告げている。
 今日一日一緒に過ごせるだけで満足だと言った佐矢子が、本当にそんなものを望んでいるとは思えなかった。

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